WEI戦略マップの完全実装ガイド
――市場シェアと幸福度・主体性で「勝ち続ける組織」を設計する
企業が成長を目指すとき、これまでは売上や市場シェアといった外向きの強さだけを追い求める傾向が強かった。しかし、持続的に成果を上げ続けるためには、組織内部のしなやかさ、すなわち従業員の幸福度や主体性といった内向きの力も同時に高めていく必要がある。そこで有効なのが、市場シェアとWEI(Well-being Empowerment Index)を同一平面で可視化する「WEI戦略マップ」だ。
このマップの横軸には、市場での競争力を示す市場シェアを置き、縦軸には組織の健全性を測るWEIスコアを設定する。市場シェアは売上高や販売量といった経済的な成果を反映し、WEIスコアは経済的安定、生活の安全、社会的つながり、環境持続性といった要素から構成される。前者は結果、後者は原因に近く、この二つを組み合わせることで、短期的な成果と長期的な再現性の両方を見渡せるようになる。
マップに企業をプロットすると、大きく4つの象限に分類できる。市場シェアもWEIも高い「強者×高WEI型」は、経済的優位と社会的健全性の両立ができている理想形であり、現状維持と深化が求められる。市場シェアは高いがWEIが低い「強者×低WEI型」は、数字上の強さの裏で組織が疲弊している危険信号であり、内部改革や人材投資が急務だ。市場シェアは低いがWEIが高い「弱者×高WEI型」は、小規模ながら高い価値共感を得ている状態で、集中投資やブランド戦略によって一気に躍進できる可能性がある。そして両方が低い「弱者×低WEI型」は、事業の選択と集中、あるいは提携による立て直しが必要になる。
重要なのは、このマップを一度描いて終わりにしないことだ。四半期ごとに更新し、その変化を矢印として記録すれば、戦略の健全性を動態的に監視できる。右上へと向かう矢印は理想的な成長を示し、右下や左下への急な動きは戦略の見直しを促すサインとなる。
さらに、このマップはAIとの統合で真価を発揮する。直感的AIは市場や組織の指標の急変を即座に検知し、説明可能AIはその原因や影響を明らかにする。たとえば、ある拠点でWEIの「主体性」が低下した場合、その2週間後に解約率が上昇する可能性を予測し、原因となる業務負荷や評価制度の問題を特定できる。こうした即時性と根拠提示は、役員や現場の意思決定を加速させる。
導入の初期段階では、まず市場シェアの算出とWEIスコアの測定から始める。サーベイは簡潔に設計し、従業員や顧客の負担を抑える。得られたデータは擬名化して統合し、部署や属性ごとの偏りを補正することで信頼性を確保する。これらを基にマップを描き、90日・180日・360日の行動計画を策定する。強者×低WEI型なら短期間で心理的安全性を回復させ、中期的には評価制度や業務設計を改め、長期的には組織構造を変える。弱者×高WEI型なら集中ドメインを定め、迅速な製品改良とコミュニティ構築で市場浸透を狙う。
この戦略マップの目的は、単に現在地を知ることではない。組織の未来を「点」ではなく「矢印」で捉え、どの方向へ、どの速度で進んでいるかを把握することだ。市場シェアの拡大とWEIの向上は、互いを高め合う関係にある。これを継続的に監視し、AIと人間の判断を組み合わせて修正を加えれば、企業は「勝つ戦略」から「勝ち続ける戦略」へと進化できるだろう。